2011年6月29日水曜日

“高速水着”とは何なのか?

水泳の世界選手権(イタリア・ローマ)開催中の24日、国際水泳連盟(FINA)の総会で、来年からの競泳用水着の新規定案がまとまった。これは、昨年から始まった“高速水着”による、世界記録ラッシュを制限するワンピース水着ための規定となる。
北京五輪以来激化した、各メーカーの“高速水着の開発競争”。元をたどると、昨年2月に発表されたスピード社製競泳用水着「LZR RACER(レーザー・レーサー)」の登場が、一連の話題のスタートとなっている。
では一体、“高速水着”とは何なのか? 今回、競泳用水着に革命を起こした「レーザーレーサー」の秘密について、日本でスピード社製品を取り扱うゴールドウィン社の小嶋正年事業部長に話を伺った。
■レーザーレーサー誕生のきっかけは「スパゲティー」!?
日本で「レーザーレーサー」の販売を取り扱うゴールドウィン社の小嶋事業部長。レーザーレーサーの誕生で08年は「競泳水着の開発元年になると予想していた」と話す【スポーツナビ】 レーザーレーサー発表前の水着について小嶋氏は「今までの水着は、表面の抵抗を重視し、いかに人の肌より速く泳げるかに重点を置いていました」と語る。スピード社でも以前は、サメの肌をまね、人の肌の表面よりも水がスムーズに流れる水着を作っていた。
しかし、より進化した水着を追及していく中で、開発の方向転換が始まった。スピード社の研究機関「アクアラボ」のトップであるジェイソン・ランスは「スパゲティーをゆでようとしたとき、乾麺がお湯の中にすーっと入っていくのを見てひらめいた」という“発想の転換“をする。それは、水着の表面だけを考えるのではなく、スイマーが水の中をすーっと泳いでいくには、どのようにすればいい3点セット水着 のかを考えるようになったのだ。
「学問的なことで言えば、流体力学で考えるべきだという発想になりました」。

流体である水の中を泳ぐときは、必ず抵抗が生まれる。この抵抗をいかに軽減させ、スイマーのポテンシャルを引き出すか? これが“高速水着”開発へのスタート地点となった。
■NASAとの共同研究で開発を進める 水の中でかかる抵抗の計算には、スピード社の研究機関と協力している米国国立航空宇宙局(NASA)でも行われた。
「NASAにはスペースシャトルが大気圏に入ったときに、表面にどれぐらい抵抗がかかるかを精密に測れる機械があります。その最先端の技術で、素材の表面にかかる抵抗を測定し、最適な素材の選定を行いました」。

開発テストには、マイケル・フェルプス(米国)やグラント・ハケット(オーストラリア)といった、世界でも有数のトップスイマーが参加した。体を3Dスキャンで分析し、「ANSIS」というコンピューターの流体力学解析システムにより、彼らが泳いだときに、水の抵抗がどのようにかかるかを研究。そして、抵抗を受けずらい“理想のフォーム”を計算した水着が「レーザーレーサー」になるのだ。
では、何が“高速水着”のポイントなのか?
レーザーレーサーには、理想の泳ぎのフォームを維持するために、体を支える「コア・スタビライザー」というパーツを使ったり、水着に強いフィット感を持たせたりしている。また、このフィット感には、水の抵抗を受けにくいフォームを作るだけでなく、泳いでいる最中に、筋肉が微妙に揺れることで生まれる疲労を軽減させる効果もある。これが「レースの最後に疲れない」という特徴となる。

また、“軽さ”も一つのポイントだ。従来の水着は、ニット(織物)であり、繊維の間にすき間があるため、水を含んで重くなる。それに対し、レーザーレーサーで使っている「レーザーパルス」という素材は、水を含みにくい織物素材なのだ。
「レーザーレーサーは、高密度に折って製造されるので、水が入るすき間がほとんどないのです」。
水を含んだときの重さで見ると、従水着来の水着が1平方メートルあたり403.2グラムなのに対し、レーザーパルスは125.9グラムと、3分の1以下になる。この軽さが「浮くみたい」という評価につながってくるのだ。
「もちろん浮くことはありません。それは水着の構造上、ありえないことです。ただ『浮くみたい』というのは、軽いという誉め言葉なんです」。

■「スイミング・ウェア」から「スイミング・ギア」へ

競泳水着にあった固定観念を振り払い、発想の転換から生まれたレーザーレーサー。それは、「スイミング・ウェア」が「スイミング・ギア」へと生まれ変わるターニングポイントとなった。この水着の成功から、ほかのメーカーでも、開発は構造と素材へと重点がシフトされていった。たとえば、スイマーの水中姿勢を維持するために、水着をパーツで組み合わせたり、水中の抵抗を低くするために締め付けを強くする特徴を持つものもある。また、素材では、より軽くするために、厚さを押さえた素材を使ったり、水が浸透しないラバー素材などを使用している。

こうした開発競争のなか、今回FINAからの新規約が発表される。素材は織物素材に限定し、ラバー製やポリウレタン製の水着を禁止するなど、28日には素材の細部についての規約も発表される予定だ。

ただ、新規約の適用が来年からとなるため、“高速水着”に身を包んだスイマーたちの世界記録ラッシュは、今大会でも続くだろう。そしてその記録は、これから長い間、更新されることのない、“奇跡の世界記録”となってしまうかもしれない。

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